和佐隆弘の論文など - Opinions of Takahiro WASA -


by wasatakahiro

羽仁五郎の遺言 参議院本会議会議録

昭和26年6月2日 参議院本会議

○副議長(三木治朗君) 次に日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社及び有限会社の株式及び持分の讓渡の制限等に関する法律案の討論に入ります。討論通告者の発言を許します。羽仁五郎君。
   〔羽仁五郎君登壇、拍手〕

○羽仁五郎君 私は本案に反対するものでございます。

 言論の自由を理由として、ここに特に新聞社のために新らしい商法において唯一の除外例を設け、新聞社に限つてその株式の讓渡の制限又は禁止を許そうとする本法案に対する私の反対のすべての理由は、現在我が新聞社が言論の自由を飽くまで守る確証を我が国会及び世論に対して與えていないからであります。本案発議者は、現在日本の新聞において言論の自由が守られていると説明されました。果して然らば私は喜んで本法案に賛成したいのであります。併し、最近イギリスにおいても新聞の自由の危機について世論及び国会に深刻の問題が発生している。かく、新聞の自由において輝ける伝統を有するイギリスにおいてさえ現在深刻の問題を生じているのに、我が日本において新聞の自由が確保されているとして、我々が安心していることができましようか。而も現在イギリスにおいては、この危險を直視し、その対策が講ぜられているのに、本法案は、この危險に目を蔽い、そうした危險がないもののように装つて、事実を欺き、事実の虚偽の上に立法しようとしているのであります。昨年十一月、イギリスの有力紙ピクチユア・ポストの名編集者ホプキンス君が突然解雇された。その理由は、同紙上に、現在イギリスの新聞記者として最も卓越の一人として知られているジエイムス・カメロン通信員が、南朝鮮軍の残虐行為について報道し、国連がこれを阻止すべきことを求めた記事を掲載すべきか否かにつき、同紙の編集者と、同紙の所有者、経営者であり編集長であるエドワード・ハルトン君との間に見解の不一致を生じたということであります。而もハルトン君は、新聞の所有者として経営者として知的の識見を有し、聰明を以て知られていた人物である。更に又ここにおいて、ザ・ニユー・ステイツマン・アンド・ネイシヨン紙のごときは、その十一月十一日、その社説を以て「今や、イギリスの新聞記者、編集者は、何ものをも恐れるところなく真実の報道の任務使命を果す確信を失わねばならないか」と警告し、新聞の経営権と編集権との正しい関係の回復を要請しておるのであります。




 本法案に対し、我が国会がこれを可決すべきか否決すべきか、諸君がこの判断の基礎とされなければならない具体的の問題がここにあります。即ち新聞の自由のためには、新聞の経営権と編集権、読者が真実を知る権利、この三つの権利が最も正しい関係に守られなければならないという要件であります。イギリスにおいて、新聞についての識見を以て知られているフランシス・ウイリアムズ君が、ザ・ニユーステイツマン・アンド・ネイシヨン紙の去る十二月二日紙上に、編集者への書簡において、新聞の自由は、新開の所有者と、新聞記者と、読者と、この三つがすべておのおのの権利と責任とを対等に認められて新聞に参加するときにのみ成立することを明らかにしております、これらの点について現在日本の新聞の現実はどうなつているか。少くとも朝日、毎日、読売、東京、そのほかの東京の大新聞について、これらの点について、即ち果して新聞の自由が、経営者と、新聞記者と、読者と、この三者の権利と責任との対等の正しい関係の確保の上に保障されておるか。一言にして言えば、それらの新聞において、良心的の新聞記者が、果して何ものをも恐るるところなく真実を報道することができているか。この点について我が国会が確信を持つて判断するに足る資料を示されることを、私は繰返し繰返し懇切丁寧に提案者に求めたのでありますが、遂にこれを與えられることが今日までになかつたのであります。この確証があるならば、何故にこれを示されることを惜しまれるのか。この確証を示されない限り、その確実の保障なきものと判断せざるを得ない理由があります。そうしてこれが私の本法案に反対する理由であります。

 新聞の自由という点において、新らしい商法の一般株式会社及び有限会社に関する規定から新聞社だけを外すということが、その新聞の自由の確証なくして行われることは、新らしい商法の一般の信頼に対する悪い影響をも考えねばならないことであります。新聞のみが特権的取扱を受けるその理由が薄弱であるならば、今後、放逸事業そのほかさまざまの株式会社などがそれぞれ薄弱の理由で新らしい商法の適用を免れようとすることをも防ぎ得ないかも知れません。そして、現に本院の法務委員会において、これらの点に関する私の質疑に対し、本案発議者、押谷衆議院議員は、将来において新聞の性質を規定するに法律を以てすることもできようと、頗る危險の答弁をされました。新聞に対する法律が、新聞の自由を守るという美名の下に、新聞の自由を窒息させた伝統の存する我が国において、新聞を法律によつて規定することには、実に重大なる危險があります。本法案はそうした危險の立法をも招く慮れがあります。新聞の自由は、新聞がみずから多年の不断の努力と鬪争とにおいて事実の上にこれを確立し、その確証を以て国会及び社会の承認と信頼とを得らるべきものであることが忘れられてはなりません。

 然るに今新聞の自由につき確証が提出されない。そして、その他方、昨年における我が新聞記者の多数の解雇が、新聞の自由につき疑義を生じているところがあります。この五月の雑誌「人間」の誌上に、文学ではありますが事案に基いて、昨年の新聞記者レツド・パージの際、東京の大新聞の一人の記者が何らの思い当ることもなく突然無残に首を切られ、家に帰つてこれを妻に告げると、乳児を抱いていた妻は忽ち生活の不安に顔面蒼白となり、乳がとまつてしまつたという悲惨を述べています。このような恐怖に新聞記者をさらすならば、良心的の新聞記者といえども、どうして何ものをも恐れるところなく絶えず読者に真実を報道する任務を全うすることができましようか。この点につき、今日、日本の新聞記者は、一般株式会社の又は有限会社の社員と何ら異なるところがないのみらならず、新聞記者は、その職務の性質上、政治の問題、平和の問題、戰争の問題などに触れなければならないので、今日の日本では一般会社員よりも却つて更に不当の処分の危險にさらされているのであります。医師、薬剤師、会計士などが、その職務によつて社会に対して負うている公共の義務に反するような命令を拒否したために解雇されるというようなことが起るならば、如何なる恐るべき結果を招くこととなるでありましようか。然るに新聞記者においては却つてかくのごときことがあり得るのが日本の現状ではありませんか。現在日本の新聞社は、明らかに新聞記者の職務の倫理エテイクスであると考えられているところを固く守ろうとする勇気を有する新聞記者を忽ち解雇し、その椅子に数時間又は数分後にほかの誰かを補充するに何らの困難をも感じていないのではありませんか。その証拠に、最近の日本の新聞記者諸君の意気沮喪した見るも痛ましい姿が諸君の眼にも映つておりませんか。新聞の自由、社会の木鐸、無冠の帝王、何ものをも恐れず、国民が真実を知る権利に対して真実を報道する新聞の自由、これらの誇りに輝く新聞記者の姿はどこに行つてしまつたのでありましようか。然るにこの現状に対して我々の眼を蔽い、この現状をそのままにして、日本に現在新聞の自由の現実があるとし、これを守るために株式の譲渡の制限のみに頼ろうとすること、その危險誠に測り知れません。

 諸君、日本の新聞はすでに久しく戰前前から株式の讓渡制限を認められていたのであります。併し、その際、日本においては事実上において新聞の編集権が確立されず、事実上において経営権がすべてを支配していたがために、経営者は大量の紙を手に入れたいために遂に軍部に屈し、新聞編集者及び記者は何ものをも恐れず真実を報道する保障がなかつたために、我が新聞は、支持すべからざる戰争を支持し、敗北を勝利と報道したのであります。いわゆる新聞の社内株保有の制度だけによつて守られていたという日本の新聞の伝統には、かくのごとき危險があつたことを何人も忘れてはなりません。殊に我が国の大衆が、朝日、毎日、読売などの大新聞に、親、子、孫と、久しく深い信頼と愛情とを寄せて来た。この新聞の自由をいわゆる社内株保有の制度だけでは守り切れず、読者の絶対的の信頼をみごと裏切つて、平和主義を排撃し、日本をあの戰争犯罪と悲惨とに導いたのが。朝日、毎日、読売そのほかの日本の新聞であり、放送局でなかつたと、誰が断言することができますか。

 我が国会が飽くまで民主主義を守り、再び如何なる武力がこの国会議事堂に乱入支配することをも許さず、平和のうちに社会の進歩の要求実現させるためには、我が国会は実に言いがたきほどに新聞の自由によつて援助されなければならないのであります。我我があの犯罪戰争とあの悲惨を二度と繰返さないために、我々が国際世論を尊重するならば、日本の新聞、朝日、毎日、読売そのほかの有力紙は、第一に、社内に、新間の所有者と新聞記者と読者との三者の権利が最も正しい関係に置かれている事実を確認し、第二に、殊に新聞記者が何ものをも恐れるところなく、新聞記者の天職を果して真実の報道をすることができるために、不当の圧迫に対し新聞記者の個人を守る新聞記者の労働組合の団結権、団体交渉権、争議権の基本権を確認せねばならないのではありますまいか。ほかの何ものでもなく、ただ我が新聞の自由が守られるために、單に新聞社の株式の讓渡制限だけでなく、それに先だつて、事実の上に、この第一、第二の点を確認せられることを絶対的に要求するが故に、本院議員として私は現在この重大の二点の確証を日本の主なる新聞がなし得ていない事実を内外に向つて深く警告するために、我が新聞を愛すればこそ、本法案にあえて反対するものであります。(拍手)

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by wasatakahiro | 2009-02-22 18:13 | 日刊新聞法