和佐隆弘の論文など - Opinions of Takahiro WASA -


by wasatakahiro
日本の経済発展の”神風”・冷戦体制

 ベルリンの壁が崩壊してもうすぐ十年になろうとしている。四十年にも及ぶイデオロギーの対立による地球人類社会を二分した冷戦は西側の勝利に終わった。政治における議会制民主主義と経済における市場経済体制が歴史の審判に勝ち残ったのである。戦後半世紀の歴史を振り返ったとき、日本がこの勝利した体制の側にあったこ
との幸運をいくら強調してもしすぎることはない。

 戦後の経済復興の優等生といえば、旧西ドイツと日本である。経済の奇跡とさえ称された。その一方の西ドイツは、旧東ドイツの経済的統合のために四十年に及ぶ蓄積の相当部分を消耗してしまった。一九九O年三月にボン政府の招待で旧東ドイツ初の総選挙を取材する機会があった。コール首相は一対一の通貨統合を呼びかけていたが、その時にかい間みた旧東ドイツの経済実態は一対四とも一対八ともいわれていた。

 その時、ボン政府の一人から聞いた次のことばを忘れることができない。「われわれは共産主義計画経済という不幸な体制下にある東ドイツを助けなければならないと考えできた。その時にそなえで経済力を強化し、外貨準備をたくわえてきた。近代国家としての憲法をわざわざ『基本法』と名づけているのも民族統合を達成したあ
かつきに憲法をつくるためだ」と。東側の経済の優等生といわれた旧東ドイツの経済でさえ、統合段階では巨大な”お荷物”になっていたのである。

 それに比べてみて、戦後の日本の世界史における経済環境の何と恵まれていたことか。米ソの軍拡競争下にあっては、戦争放棄をうたった九条をもっ平和憲法は、資本蓄積に大きく貢献した。そのうえ、朝鮮戦争やヴェトナム戦争といったアジアでの不幸な出来事でさえ、それらが特需景気をもたらした。まさに経済国家日本の”経営”において”神風”が吹いていたのである。

 勤勉で質の高い労働力と優秀な官僚が戦後の経済の奇跡にあずかつて力があったことは事実である。終身雇用、年功序列賃金、企業内組合といった日本的経営の果たした役割も大きいだろう。だが、冷戦構造という神風的な世界状勢がその背景にあったことを忘れては、その評価を誤ることになる。
 いや、ペブル崩壊後の景気対策がその所期目標を達成できず、対症療法から脱せられないのは、この”神風”が今や”逆風”に変わったという認識を欠いていることが深く関係している。二十一世紀を展望するうえで、現状打開策を検討するための前提として、議論のテーブルに上げておかなければならない。

(②以降につづく)
1997年4月,日本及日本人(平成9年陽春号)
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# by wasatakahiro | 2009-02-25 21:45 | 既発表のもの